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NPO法人環境経営学会会長
環境経営格付機構理事長
埼玉大学客員教授
三田和美 |
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また、正月を通り過ぎた。どこに向かう道の一里塚なのか、それが問題である。 |
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およそ環境経営にかかわる建設的な理論と情熱の持ち主を網羅して2000年10月に設立された環境経営学会の設立準備過程で、
2冊の書物が準備委員会に紹介された。一冊は山本良一著「戦略環境経営・エコデザインベストプラクティス100」であり、
今日まで当学会の「環境経営事例発表連続シンポジウム」の基礎をなすものとして引き継がれている。 |
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本文で主題に関連してとりあげるもう一冊とは、西澤潤一ほか著「人類は80年で滅亡する」のことである。
そこでは「地球温暖化」問題は、背景にあるCO2中毒問題と関連して考えられるべきだとし、現在の傾向が続けばおよそ150年ののち、
人類が窒息死する可能性のある大気中3%の濃度に達すると推測している。ほかに50年という権威ある推計結果もあり、他の条件も考慮して
同書では、地球メカニズムが人類社会崩壊に向かって起動することを阻止しようとするには、80年がひとつの限界だとしている。 |
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1997年以来、私はIPCCのある損保系の専門家の主張に注目してきた。その訳は、映画にもなった1990年の
「パーフェクトストーム」にみられるごとく、人類自身が地球メカニズムのなかに蓄積してしまった膨大なエネルギー
による自然災害の急激な規模の拡大が、遠からず人類が築き上げた文明のすべてを押し流す事態にまでいたるで
あろうと予想していたからである。 |
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その専門家は、自然災害によって破壊される「財」が、人類が生産する「財」をうわまわる時期は、
2050年であると計算して見せたのであった。同年を期して人類の年次決算が赤字となるということである。
自然環境破壊が幾何級数的に増大している現状を変えることができなければ、「赤字」も幾何級数的に増大し、
短い期間で「破産」にいたるであろう。この計算は、最近に至って別の損保系専門家によって、2065年と訂正
されたが、さして喜ぶべきことではあるまい。 |
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ここ数年、私が最大の関心を払って見ているのはグリーンランドの氷冠の解氷である。有名なNASAの
写真にみられるように、雪と氷の塊であったはずの同島はすっかり岩肌むき出しの「ロックアイランド」
になりはてている。解けた真水はどこへいったかといえば、北大西洋、アイスランドとグリーンランドの間の海
である。そこにあるのは世界の海流の基流ともいうべき「ブロッカーのコンベアベルト」のエンジンであり、
北大西洋沿岸諸国を温めて、今や数少なくなった農産物純輸出国たらしめているメキシコ湾流(暖流)を
ひきよせているエンジンの所在地でもある。そのエンジンは海水の急速な結氷と冷却による比重の高まりに
よって発生する。実に海面から深海にむけて高さ3千メートルの滝が存在していたのである。これが現在では
数百メートルにまで短縮されているという。エンジンが停止し、西ヨーロッパやカナダ・アメリカの東岸が
「シベリア」となり、世界が深刻な穀物不足に陥って、30億人が餓死するとされる事態はいつ発生するか
判らない。(一説では、約8年とされている。) |
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今世紀にはいり、世界の穀物生産は毎年連続して不作を続けている。昨年9月、アメリカのレスターブラウンは
水と食料問題にたいして緊急に対策を講じるようアピールをおこなった。中国が本格的に食料輸入大国として
世界のマーケットにあらわれ、食料価格の高騰がいっそうの貧富の差を拡大し、絶望に陥った民族をより多く
生み出す事態の到来は、間近である。 |
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21世紀はグローバルな飢餓とインフレとテロの時代となった。 |
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消費者や市民は、一面、衆愚である。環境対応商品といえども高ければ買わないし、民主政治はソクラテスを
死刑にしたアテネのそれ以来、伝統的に茶番である。だからといって日本財界の代表とやらがNPOを無頼漢
よばわりして世界の笑いものになったり、経団連があからさまに政治をカネで買う「政党評価」をおこなったりしても、
ノーリスクでいられるというものではない。カタストロフィーは予想したところでなく、最も弱い「環」を狙って
押し寄せてくるものなのだ。現在盛んに唱えられているCSRとは、本質的には経営者の倫理を問うものである。
そこに、制度を揺るがす弱い下腹があったのだ。 |
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ますます破壊が進行する自然と、タガのはずれた政治と経済。この最中にわれわれはいかなる「触媒」を提供して
危機からの脱出を図ることができるのか、そこが勝負どころである。 |
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今年の初夢の名は「暗い予兆」がふさわしい。めでたくもあり、めでたくもなし。(2004年2月3日) |
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